第五話「エアロ」

「レンを、傍で守る約束をしたんだ」

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「チッ!」

普段は冷静沈着なレンだが、
無意識に舌打ちが出てしまう。

連戦の疲労で心身ともに限界だった。
すると突然、

「——『ミント』!」

遠くからフレーズを叫ぶ声が聞こえた。
リゼは、瞬時に危険を察知しする。

「!!?お前ら、こっち飛べ!!」

リゼは、即座に地面へ右手を当てると、
桃色の幾何学文字が三人の頭上に広がった。

——ガチャ、ガチャン!

すると、ガラクタを固めたような
巨大なシールドがすぐにミントされた。

……アオイは、
リゼの言う通り飛び込んだものの
何が起きているか分からず、
ただただ困惑している。

そして次の瞬間、

——ズゴォン!!!

「!?うわっ、なんだ!!」

やはり、リゼの勘は当たった。
コンテナの屋根がバキバキと悲鳴を上げ、
巨大な金属の塊が振り落とされたのだ。

辺りは土煙で覆われ、何も見えない。
その時、外から誰かが三人に向けて
呼びかけた。

「いつまで隠れてんだ?
 ——どうせまだ、
 ピンピンしてんだろぉ?」


この甲高くしゃがれた声は、
エアロのリーダー「〇〇」だ。

このやり取りは定番で、
“樂画鬼(ラクガキ)”がホームに帰還したところを
エアロはいつも狙ってくるのだ。

彼女はダルそうに
バイクに背をもたれながら
身長より高い金属製のステッキを
まるで威嚇するように
ブンブン振り回している。

……ガラッ、ガラガラガラ

砕かれたホームの瓦礫が崩れ、
砂埃が立ちこめる中、
人影がうっすらと見える。

「どうせ、目的はワタシだろ?」

——レンだ。

リゼのシールドのお陰で、
傷はひとつもついていない。
「〇〇」は苛立ったように、こう答えた。

「そりゃ、裏切り者だからなぁ。
 追いかけるのは当たり前だろ、な?」

「〇〇」はバイクに
もたれ掛かるのをやめ、
雨上がりでぬかるんだ地面の上を
ゆっくりと歩いて近づいていく。

——ビチョッ、ビチョッ

レンは砂埃で前が見えないが
「〇〇」がゆっくりと
近づいてくるのを察した。
そして、瓦礫を右手で触れながら叫んだ。

「——『ミント、コネクト』!」

すると、翠色の幾何学模様が
瓦礫を包み込み、
レンのすぐ横にティエンを具現化した。

「——トプン」

彼女はすぐさま、
ダミーチップを取り出し自我を与え、
宙に浮かぶディスプレイを見て
ウォレットの残高を確認した。

(……前回のコネクトから約12時間。
 ティエンが可動できる時間は
 あと1分半か
——

レンが悩む矢先、
ティエンの姿を見た「〇〇」は
急に表情を変え、
明らかに怒りを見せた。

「テメェもだからな、トリ公!
 いつまで、そっちにいるつもりだよ」


「わたしはお前と行動するつもりはない。
 何度言えばわかる!」


——リーダー、レン、ティエン。

この三人には深い因縁があり、
それは数年前から長く続いている。

レンはすかさず言った。

「帰れ!相手にしてる暇はない!」

「やだね。いつも通り、
 嫌がらせだけでもさせてもらう。
 お前ら、やれ!!」


「〇〇」がステッキを真上に降り上げると、
周りを取り囲んだエアロの部下たちが、
一斉に銃撃をしかけてきた。

——ズダダダダダダダ!!

十数人が放つ機銃の音が交わり、
周囲に大きく響き渡る。
その隙に「〇〇」はステッキを回し始めた。

「○○」が持つステッキには
ジェネレーターが搭載されている。
つまり、デジタルスプレーのように、
空中に絵を描くことが可能だ。

「——『ミント』!」

「〇〇」が唱えると、
まるでグラフィティアートのような字体で

「閻」

という文字が宙に具現化した。

「オレの攻撃はな、
 その場でグラフィティを描き、
 戦法をクイックに切り変える。
 特に炎や風などのエレメントでお前らを
 痛めてやるから気をつけな!」

「クソ……!ペラペラ喋りやがって。
 どうせ誓約で威力を上げるのが
 目的だろ!」


NFTでの戦いは、
あえて自分の手の内を明かすことで
その覚悟を誓約とし、
威力が増強される仕組みだ。

「ほら、鳥の丸焼きにすんぞ。
 ———『バーン』!!」

「〇〇」が勢いよく唱えると、
具現化した文字から黒炎が吹き出した。

——ゴォォォォ!!

「!!?レン!
 わたしの傍へ!」


ティエンはすかさず、
右翼を広げてレンを護る。

しかし、その黒炎の温度は凄まじく
岩をも溶かす勢いで
みるみるうちに翼を溶かしていく。

「くそッ!もう『ミント割れ』か!
 リゼ!!」


レンは後ろを見るがリゼはまだ、
崩れたホームの中で身を隠し、
エアロの銃撃から身を守っている。

「レン、すまん!取り込み中だ!!」

(リゼには頼れない、か……)

そして気がつくと、
——アオイがいない。

「!?な、アイツどこ行った!」

レンは気がつき焦った。

「おい!アオイ!どこだ!!」

するとすぐに、足元から声が聞こえた。

「こ、ここだよ〜。助けて〜!!」

そこには目を赤く腫らし、
泣きながら足にしがみつこうとしてくる
アオイがいた。

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