第二話「レン」

「ワタシは……
 ずっとお前に逢いたかったんだ」

画像

激しい雷雨の夜だった。
アナログな壁掛け時計は、
ちょうど夜中の12時を指した。

画像

その時、
いつもの様に “樂画鬼” と書かれた
ピアスがピピピッと鳴り、
ニュースの通知を知らせてくれた。

「——『オープン』」

——ヴゥン……ジジジジジ

この透き通るような銀髪の女性が
革命DAO組織 “樂画鬼” の
ファウンダー “レン” だ。

画像
樂画鬼ファウンダー “レン” 

彼女がそう唱えると、
目の前にデジタル画面が投影され、
最新の情報が映し出された。

——ピコンッ

非中央集権情報局 “CAW” の
通知を見て、レンは驚いた。

(⁉……これは……)

それは
「反社会組織 “ヘルメス” の
 構成員を公開処刑する」
という、知らせだった。

レンが驚いた理由は、
ヘルメスの処刑に対してではない。

昨今のシン日本軍は狂っている。
処刑のニュースは日常化しており
特に珍しいことではないからだ。

彼女が驚いた理由は、
2ページ目の処刑リストだ。

そこに並ぶ顔を見て、レンは驚き、
涙をこぼしたのだった。

(——まさか……。どうする!?)

——バサッ!!

気がついた時には、
すでにレンは動き出していた。

薄く透明な羽織を着て、
慌てて飛び出そうとする彼女。

それに対し、
樂画鬼のメンバーである “リゼ” は
両手を大きく広げて、出口を塞ぎ
救出を猛反対した。

「おい、やめとけ!」

「!?——うるさい!!」

感情の昂ったレンは腕を振るい、
珍しくリゼを跳ね除けた。

「———『ウォレット』!!」

レンが叫ぶように唱えると、
またもデジタル画面が空中に投影された。

ウォレットの中にはNFTが並んでいて、
触れる行為……、もしくは音声認識で
選択できるようになっている。

レンは早足で駆けながら、
大型バイクのNFTを選択した。

降りしきる雨の中、
外に出たレンは右手のひらで
ホームの壁を強く叩き、呪文を唱えた。

「———『ミント』!!」

すると、
壁から螺旋を描きながら、
幾何学文字が広がっていく。
それは徐々に輪郭を象り、
NFTと全く同じバイクを具現した。

——ズド、ズドドドドド!!!

レンはまたがり、エンジンをかけた。

目的地である
TOKYO第二拘置所へ
猛スピードで急進。

単身、処刑者リストの真実を
確かめに向かった。

—————

拘置所まであと数分というところで、
後方から何やら気配を感じた。

———ヴォン!!!!!!!!!!

一台のバイクが猛スピードで
レンの左脇を駆け抜け、
進路を塞いだのだ。

レンは已む無く、
急ブレーキをかけ停止した。

(……くそ、こんな時に!)

正体は、
中国系マフィア “絵亞魯(エアロ)”だ。
彼女の周りを十数人の部下たちが、
徐々に取り囲んでいく。

「——急ぎか?こんな夜中に?」

“絵亞魯”のリーダーは、
バイクに乗りながら、
不機嫌そうに言った。

——ドドッドッドッドッド

降りしきる雨音に、
バイクと心臓の音が合わさり、
なぜか苦しく感じる。

「—どけ、
 今はお前の相手はできない」


するとレンの後方から、
眩しい光と共に
激しいバイク音が聞こえた。

——グォン!!ズドドドドド!!

「オラ!轢くぞ、テメェら!」

!?——グギャギャギャギャ!!!

リゼが駆けつけたのだ。
“絵亞魯”の隙間から、
割って入るリゼ。

「しょうがねぇな……。いけ!」

状況を即座に読み取ったリゼは、
彼女に強く言い放った。

「……恩に着る。」

レンは遅れを取り戻すように、
バイクのアクセルを強く捻り、
拘置所へ到着した。

画像
TOKYO第二拘置所

降りしきる豪雨と闇夜のおかげか、
警備が少なく、TOKYO第二拘置所に
近づくのは容易だった。

「———『ミント』」

レンが囁き、
拘置所の外壁に手を当てると、
大型の白い鳥のNFTをミントした。
体長は2メートルほどもある。

……こんな雨の日でなければ、
その羽は月夜に照らされ輝き、
とても美しいのだろう。

レンは胸の辺りから、
銀色のデジタルチップを取り出し、
右手に優しく握った。

——トプン。

剥製のように動かない白い鳥。
その首筋に手を触れると、
彼女の手はまるで、
水に入れたかのように吸い込まれた。

レンは銀色のチップを
そっと右手を開いて離した。

これは “ダミーチップ” といい、
ミントしたNFTと
自我を結びつけるための
貴重な代物だ。

「——『コネクト』」

すると、白い鳥の目は
エメラルドのように緑に輝き、
針のように鋭い羽毛も、
雨風で動き始めた。

ダミーチップが、
いわば「NFTに命を宿した」のだ。

画像
白鳥型のNFT「ティエン」

「——ティエン、頼む。
 失敗できないんだ……」

レンの声は静かだったが、
同時に覚悟も含んでいた。

ティエンという名の白い鳥は、
レンを見つめ小さく頷き、答えた。

「ついに……だな」

どこにアオイがいるか見当がつかない。
しかし、時間は限られている。

明日の朝方には、
処刑場まで移動させられるだろう。
そうなれば、きっと救助は困難になる。

(……もし失敗すれば、
 確実に一緒に処刑されるだろうな)

ティエンは、
レンの表情から全てを察した。
だが、あえて触れずに
彼女の背中を押すように言った。

「レン、いいか!
 ワタシは3分が限界だぞ!」

「分かってる……。一気に行くぞ!」

緊張の中、レンとティエンは、
TOKYO第二拘置所内を、
正面から強行突破することにした。

画像

「———!?侵入者か!」

シン日本防衛隊は、
すぐに異変に気がついた。

「フン!
 正面から突破してやるよ」

ティエンはそう言うと
大きな羽で防御しながら
鋭い黒羽で次々と敵を薙ぎ倒した。

——ウーーウーーーウーーー!!

「チッ!」
(……サイレンが鳴ったか。
 コネクトの解除まで、あと1分だな。)


サイレンを聞きつけ、
駆けつけるシン日本防衛隊。

このまま暴れ続けるだけでは、
救出は難しいだろう。

……ピキンッ

「——!?」

レンは一瞬、
何かが共鳴した気がした。

「ティエン、その部屋だ!!」

レンが指差した独房の扉を
ティエンが力ずくで破壊すると、
そこには、なんとアオイの姿があった。

彼女は錠で壁に括られ、
血を流していたが、意識はあるようだ。
身体は動かないが、眼球の動きを確認した。

レンはその様子を見ると、
安堵の表情を浮かべこう言った。

「——久しぶり……だな」

「——だ……れ……?」

アオイの手錠を壊し、
逃げようとするが、
シン日本軍の包囲網は甘くなかった。

「おい、前方部隊!
 今すぐ出入り口を固めろ!」

TOKYO第二拘置所は、
瞬く間に包囲され、
数百人の軍隊に
完全に封鎖されてしまったのである。

逃げ場はない。
外の雷音が聞こえないほど、
強くアラームが鳴り響く中、

三人は籠城する他に
選択肢がなかった。

画像

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次