第八話「モネとオルタ」

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「いくで!
 ——リビールッ』!!」


黒髪に紫のメッシュが入った
ツインテールを砂嵐に揺らしながら、
一人の女性が叫んだ。

樂画鬼の一員、
NFTコレクターの “モネ” だ。

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NFTコレクターの “モネ”

リビールとは、
武器をランダムに具現化する。

ギャンブル性が高いが、
低確率でレアNFT(強個体)
をミントできるメリットがある。

——バンッ

モネはしゃがむと同時に
両手で強く地面を叩いた。
そして——

『リビール!』

その言葉を合図に、
紫色の幾何学模様が渦状に巻き起こり……

——何の変哲もない

……しかし不気味に光る、
小さな「銀貨」が具現化されたのであった。

「にゃーんだ、ハズレかぁ……。
 しゃあないなぁ〜」

モネはその銀貨を拾い、
流れるような手付きで指先へ乗せると、

『ユーティリティ!』

そう唱えながら親指を強く弾いて
空高くトスをした。

————ピンッ

「ワクドキするにゃ〜。
 ギャンブルは、たまらんなぁ〜ウキウキ」

「……はッ、何いうとんねや!
 お遊びちゃうで、ガキんちょが!」

——ダダッ!

ヘルメスには、戦闘狂が多い。
こちらから仕掛けなくても、
どうでもいいイチャモンをつけて
襲いかかってくることが常だ。

今回の戦闘も
シンOSAKAに到着して早々に、
ケンカを売られたのだった。

「はッ。阿呆が!
 突っ込むしか能がないんか。
 まぁええ、遊んだろか」

モネはヘルメス戦闘員に
煽るように言い放つ。

好戦的な気質で、
ケンカを売られれば
もちろん、買うのだ。

ヘルメスの戦闘員は、
鋼鉄のブラスナックルを
はめた拳を大きく振り上げ、
モネの顔面目掛けて
一直線に殴りかかってきた。

ブンッ!

しかし、
モネは紙一重で全ての攻撃を躱す。
接近戦闘には慣れているのだ。

——ブンッ!ブンッ!!

「クソッ、ちょこまかと……!!」

「よっ、ほっ、さっ……!
 余裕余裕♪ぜんぜん素人やなぁ。
 ……で、ヘルメスさんは、
 ”表” でええかー?」

「知らんわ!勝手にせぇ!」

ヘルメス戦闘員の適当な回答に
モネは、ニヤリと笑う。

その回答を待っていたかのように、
空高く上げた銀貨が落ちてくる。

——チャリンッ……

コイン特有の軽い金属音が鳴った。
その瞬間、

————ダンッ!

銀貨をヘビメタなブーツで
間髪入れずに踏みつける。

一瞬の静寂。

それからモネは
勝ち誇ったようにニヤリと笑う。

まるで大胆にハッタリをかます
ギャンブラーのように

「ほな、アンタは表な!」

高らかに言い放って足を退けると……
そこには砂にまみれた銀貨が
裏側に転がっていた。

モネの表情は更に口角を上げ、
残忍な笑みに歪み……

「じゃじゃーん!
 ……残☆念でしたー!
 にゃははははは!!!!!」

昂った笑い声が響き渡った。

そしてコインは
紫色の幾何学的文字を纏い、
砂となって消失した。

「はぁはぁはぁ……。
 だから……何やねん!
 続きいくで、ウラァァァーー!!」

狂気さえも感じる
モネの笑い声を掻き消すように、
ヘルメスの戦闘員は
その顔面目掛けて
大きく右拳を振り被った。

「あんた、ほ〜んま阿呆やなぁ……」

相手の拳を避けようともせず、
モネはただ余裕の声を上げた。

次の瞬間

——!?グンッ!!

——ピタッ

「なんやッ……身体が動かん
 オイ、なんでや!」


ヘルメスの戦闘員は
必死にもがく様子を見せるが、
まるで時が止まったように
ピクリとも身体は動かない。

「ぐっががぁぁぁがががが……」

「お?なんや、
 コイントスのルールも知らんのか?
 ……順番や順番!
 まぁアンタのターンは来ェへんけどな。
 にゃっはっはっは!」


「ち、畜生……
 こんなふざけた奴に……」


銀貨のユーティリティは
“コイントス” 。

その名の通り、
表裏でジャッジし、
正解した者だけが
先行して攻撃できるのだ。

「ほな、——『ミント』!」

彼女は、近くの瓦礫に右手を触れ
身の丈ほどもある大鎌を、
具現化した。

——シャキン

刃の部分が冷たく、緑色に光っている。

「よいしょっと~!
 にゃにゃにゃ!!」


モネはその大鎌を両手に持ち替え、
妖艶な輝きにうっとりと目を細め、呟く。

「にょほ……いつ見ても美しいにゃ……!
 今日も頼むで。キミの晴れ舞台は
 この目にしっかり焼き付けたるからにゃ……!」

そして今度は
その愛しい相棒を高らかに掲げ……

「ほな、ばいにゃ〜〜」

そのまま躊躇なく
戦闘員の首元目掛けて振り下ろした。

「ヒッ!?——やめてくれ!!」

——ガキンッ!?

突然、横から何かが飛び込んできた。

「もぉ、モネちゃん!
 殺さへんって約束したやろー!
 何回言わせるんや!」

目の前には色鮮やかな蝶の羽。
鱗粉に似た光の粒子が舞う。

モネには見慣れた後ろ姿……
ピンク色の髪をなびかせた少女が、
モネの渾身の一撃を阻んだのだ。

「……ハイハイ、オルタ。
 冗談にゃー。
 ファンサってやーつ!」

モネは心底ガッカリした様子で
深いため息をついた。

「——『アンロード』!」

——シュン

モネが唱えると、
紫色の幾何学模様が大鎌を包み込み、
元の瓦礫に戻した。

使用した武器NFTは
激しく消耗しない限り、
ウォレットに戻すことができる。

「ふーん、ほんまに冗談かなぁ?
 モネちゃん、
 全然そんな風に見えへんかったけどな~。
 あと、いい加減 “オルタちゃん” って
 呼んでくれたら嬉しいなぁ~!」


彼女の名前はオルタ。
薄いピンク色の髪に、
緩めのウェーブがかかっている。

ナース姿に水色のパーカーを羽織り
背中には “チョウの羽” がついている。

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樂画鬼の一員 “オルタ” 

その羽は、
まるで虹のように七色に光り輝き、
さらに、モネが思い切り振り下ろした
大鎌を受け止めても、傷一つついていない。

「そーれよりもさぁ……。
 モネちゃん、どうするん?
 この人、ヘルメスなんやろ?」

ヘルメスを指差して、
オルタはモネに訊ねる。

その声色は冷たく、
戦闘員を見る瞳に光はない。

殺しはしないで、
と止めに入った姿と相反していた。

「オ・ル・タ “ちゃ~ん” !
 ウチら双子やのに、
 どうしたいんか……わからんにょ?」


「あー、やっぱりいつものやんな?
 マモ兄に怒られへんか不安やわぁ……。
 ん〜〜ま、いっか!それ〜!」

オルタが背中の羽を前後に揺らすと、
黒く輝く鱗粉が煙のように現れ、
まるで意志があるかのように
そのまま敵を包みこんだ。

「!!?——何……や……これ……」

——ドサッ

ヘルメスの戦闘員は
そのまま膝を落とし、
顔面から倒れ込んだ。

「よーし、おっけー!
 モネちゃん後はよろしくぅ!」


モネは、気絶したヘルメスの戦闘員を
手持ちのロープで拘束した。

「はぁああ〜
 今日は食料調達、無理やなぁ……
 また来るの、めんどいにゃー。」

「モネちゃん、わかるよー。
 わかるけど、お兄ちゃん待ってるし帰ろ!
 ウチが運転するからさ!
 ――『ミント』!」


周りの建物は、
強い風と酸性雨で朽ちているものが多い。
しかし、ミントなら無機物の再構築が可能だ。

オルタは両手を地面の瓦礫に触れ、
フレーズを唱えた。

すると、
橙色の幾何学模様が渦を巻き、
ジープ型のメタモービルを具現化した。

「ほな、モネちゃん乗って乗ってー!」

オルタがジープに乗ろうとしたその時、

——ズダダダダダダダダ!!

「!!?オルタ、あっち見てみ!」

数十メートル先の市街地で
ヘルメスとシン日本軍が今まさに
銃撃戦を始めたところだった。

すぐさま二人はジープの陰に隠れ、
様子を伺うことにした。

そしてオルタとモネは、
その中の一人を見て驚愕する。

「?!まさか……アイツって!!?」
「?!まさか……アイツや!!?」

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