第七話「ユーティリティ」

『それが、お前の “能力” だ……』

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「——お前、一体何者だ」

エアロのリーダーは、
一瞬、狼狽を顔に漂わせた。

「……」

その鬼は雨だまりに映った姿を見て、
ずっと黙りこくっている。

敵の銃声はぴたりと止み、
鼓膜を圧迫するほど
深い沈黙と緊張感が漂った。

全身が氷で構築された鬼は
冷気で周囲の人間を凍えさせる。

その冷気は数メートル離れた
エアロの部下でも震えるほどだった。

レンは沈黙する鬼へ、
まるで結末を予見していたかのように
落ち着いた声で話しかける。

「アオイ、驚いたか?」

「……」

「——無理はない。
 それがお前の
 ”ユーティリティ(能力)” だ」

アオイの本体は、鬼の後ろに横たわって
ピクリとも動かない。

代わりに、
鬼のNFTにコネクトせず、
自我を移行した様子だ。

鬼と化したアオイは、
その硬く重そうな口を動かして、
小声で呟いた。

「……イイ」

エアロのリーダーは
訝しみながら、聞き返した。

「——なんだって?」

雨だまりを見つめていた
鬼の視線は空を見上げ、
まるで打ちあげた花火の様な
大声を上げた。

「———カ、カッコイイィィ!!!!」

「!!?」

その大声は大気を震わせ、
敵も味方もとっさに両手で耳をふさいだ。

その声量に周りは驚いたが、
それよりも、アオイの思いがけない反応に
その場の全員が面を喰らってポカンとした。

「……よーし!
 お前ら、一匹残らず
 カッチコチにしてやる!!」

——ガシッ

そう言うとアオイは
足を開いて右拳を強く握りしめ、
エアロのリーダーに向けて構えた。

「いくぞ!!おらぁぁぁーーーー!」

アオイは声を荒げながら突撃し、
高く振り上げた右拳を
ブンブンと振り回した。

——スカッ、スカッ

しかし、大振りな攻撃は、
全く敵にかすりもせず、
ただ虚しく空を切っただけだった。

警戒していたエアロのリーダーだったが、
拍子抜けした様子でこう言った。

「——まるで、子どもの遊びだな」

「なんで……
 なんで当たらないんだぁぁーー!!」

アオイは自分の戦闘センスのなさに
地団駄を踏みながら叫んだ。

「……ふん!
 ———『バーン』!!」

エアロはアオイの攻撃を躱しながら
“閻” を放ち、
鬼の腹部に正面から直撃させる。

「うぉ!!やめて!!」

———ドサッ

だが、アオイの身体に触れた途端、
黒炎はまた氷と化し、
地面に鈍い音を立てて落ちた。

「まったく……。危ないなぁ!」

——至近距離でもダメか」

エアロはアオイの異様な姿と、
強烈なユーティリティを体感し、
一度、様子を見ることにする。

「——今日は帰らせてもらう。
 得体の知れないモノと、
 戦いたくないからな。
 それに “嫌がらせ” という目的は
 達成した」

「あぁー!逃げるのか?
 ズルだぞ!!」

アオイはここでも子どものように
幼稚なセリフを大声であげた。

「じゃあな。
 また暴れようぜ。
 ——オイ、撤収するぞ!」

(コネクトなしで、NFTを操れるなんて
 聞いたことないぞ……。
 ボスに報告だな)

「待て、コラァ!!!」

悔しがるアオイを背に、
エアロの軍団はバイクで撤退していった。

レンは声を荒げて追おうとする
アオイの右腕をグイっと引っぱり、
冷静に引き留めた。

「やめとけ、オマエも限界だ」

いつの間にか、ティエンは消え
壊れたコンテナハウスと、
リゼを含めた三人が取り残されていた。

「!?大丈夫、
 そんなこと……な、い……」

アオイは糸の切れた人形のように
その場にガタンと倒れこみ、
そのまま意識がなくなった。

空にかかっていた雨雲は散り散りになり、
珍しく白い光が射しはじめていた。

———————————————

——時は遡り、三日前。
2069年 6月15日 PM 1:00
シンOSAKA 市街地周辺

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シンOSAKA 市街地周辺

シンTOKYO同様、
日中は暑さで40度を超え、
街中でも砂嵐が吹き付けていた。

——ガキンッ!
—ガン!!

砂嵐がザーザーと叫ぶ中、
黒く武装した女性二人が、
シン日本軍と武器をぶつけ合う。

二人の背中には、
“樂画鬼” であることを示す
SBTシールが貼られていた……。

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