第九話「カタキ」

――6年前
シン大阪中心部:病院の入り口

画像
シン大阪市内 病院エントランス

「!?きゃあああ!!」

「オルタちゃん!!
 だれか、誰か!助けて」


モネの叫び声は
白く冷たい壁に反響し、
病院内に響き渡る。

……ヘルメスの残党が一人立てこもり
オルタを人質に取っているのだ。

「にひにひひ!!
 神はまだ俺様を見捨ててないようやなぁ!
 貴様らを盾に逃げ切ったるわ」


赤い頭巾が特徴のヘルメス残党は
小銃をオルタのこめかみに突き当て
喚き散らしている。

その時……

――バババババ、パリィン!!

「!!?」

激しい機関銃の音が、
病院内に向かって放たれた。

窓ガラスが全て割れ、
破片がフロア全体に飛び散る。

「シン日本軍め!
 これは威嚇とちゃうな。完全に狙ってきとる。
 病院に立て篭ったところで
 人質も意味ないっちゅーことか!くそ!」


シン日本軍にとって、
中央政府および富裕層以外の民衆は、
全てゴミ同然である。

つまり、
ヘルメスと人質の命の価値は
シン日本軍側からすれば等しく
死んでも構わない存在なのだ。

「オルタ!!モネ!!」

開け放しの扉の奥から、
よく通る声が響き渡ると、
2人は即座に反応を示す。

「とうちゃん!」
「とうちゃん!」

その場に駆けつけた白衣の男は
オルタとモネの父親であった。

「モネ、動くな!そこにいろ」

慌てて駆け寄ろうとするモネに
瞬時に声をかけながらも、
男の視線はもう1人の娘に ……

正確には娘を捕えている者へと向けられていた。

「……とうちゃん!
 ……オルタちゃんを助けて……」

見なくともその表情がはっきりと浮かぶほど、
幼い声は震えている。

「大丈夫だモネ……
 オルタはとうちゃんが助けるから、
 そのままそこで待っていなさい」

(——落ち着け、
 あの野郎からモネの場所は狙いにくい……
 問題はオルタだ)

オルタは涙をいっぱいに浮かべたまま目を見開き、
恐怖で声も出せずにいた。

(……あの男の狙いはここからの脱出に違いない。
 ならば人質をみすみす殺すはずがない!
 ……そうだ!まだ望みはある)

男は瞬時に状況を把握した。

相手を刺激しないよう声はかけず、
静かに微笑んで頷く。

(オルタ……とうちゃんが必ず助けてやる……!)

その様子を見ていたヘルメスは、
銃口をさらに強くオルタのこめかみに押し付けながら、
気持ち悪い笑みを浮かべた。

——さながら獣が獲物を弄ぶかのように。

「助ける?にひひ!
 残念やったなぁ〜今から丁度、殺すところや」

「待ってくれ!」

男は、両手を軽く挙げ
あくまで冷静を装いながら言葉を続ける

「お前の要求は何でも聞いてやる。
 だからその子を離せ。
 生きてここから出るのが望みだろう?」

(ーー早く娘を放してくれ)

男は、
胃が焼けるような焦燥を感じながら、

ヘルメスに答えを求める。

「へ〜、お医者様やろ?
 そんなことしてえぇんか?」

ヘルメスはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。

その時——

「やめるんじゃ!」

突如、物陰から老人が声を上げ姿を現した。

白衣を纏っていることから、
この年寄りも病院関係者であることがわかる。

「お前……そいつを逃がすということは、
 ヘルメスの共犯者になるんじゃぞ!
 お前もシン日本軍に殺されることになるのが分からんのか!」

「……っ!親父、なんで出てきた!早く戻…」

——パァン!!

「うるさいジジイやなぁ」

ヘルメスは、
男の言葉を遮るように老人に向けて1発放った。

「うぐぅ!!」

「おじいちゃん!!」

「おじいちゃん!!」



その老人は、右足を撃たれ、
その場にうずくまる。

「待て!……待ってくれ……まだ交渉の途中だろ」

男は、自分の父親が撃たれたことに焦り、
続け様に叫ぶ。

「メタモービルを用意する。
 裏口とは別に、逃走経路も案内する!
 だから娘を放してくれ!!」

それを聞いたヘルメスは満足そうにニヤリと笑うと、
銃口はオルタに向けたまま言い放った。

「まぁえぇやろ……はよ案内せぇ!」

——隠し通路は
病院から少し離れた敷地へと繋がっていた。

男は急いでウォレットを広げ
白い乗用車型のメタモービルをミント、

さらにガスをヘルメスにトランスファーする。

少し離れた物陰には、
父と姉を心配そうに見守るモネの姿があった。
 


「さぁ、準備したぞ!

 オルタを、娘を解放してくれ!」

ヘルメスは小銃を持った手で
車をさらりと撫でながら納得するそぶりを見せた。



「にひひひひ、ほな受け取れや。
  ほーらよッ!」



――ドンッ!

「あッ!」



ヘルメスはオルタを突き飛ばし、

すぐさま小銃で彼女の背中に一発放ったのだ。

「!!?」

「オルタぁ!!」


倒れこむオルタを
父親が座り抱きかかえる。

銃弾はオルタの腹を貫通し、
同時にそこから大量の血が溢れ出した。

「はッ!
 用が済んだらゴミや。お前らアホか」

——その瞬間、
業火のような怒りが、
双子の父親を突き動かした。

「貴様!!
 ——『ミント』ぉぉぉお!!」


父親がそう唱えると
白い幾何学模様が渦上に巻き起こる。

刃渡り4㎝ほどのメスを
手のひらに具現化し、
強く握りしめる。

「なんやソレ、娘の手術でもする気か?
 もう助からんで、そいつ」

「てめぇはもう黙ってろ!!!!」

父親はまるで鬼のような形相で
ヘルメスに向かって突撃する。

「おぉ、こわ!
 医者の気迫はメスより鋭いのぉ!!」

ヘルメスは余裕の表情で
父親に向かって銃を放ち
身体に数発命中させる。

しかし、父親の勢いは衰えることがなく
むしろ増すばかりであった。

「ーーなっ!!」

「ぐぅぅぅぉお!!『ユーティリティ』10年!!」


すると、メスは身の丈ほどに巨大化し、
刃先が真紅に染まる。
そして、父親は素早くヘルメスに向けて振り落とした。



――ザンッ!!

「なっ!ぐぅああああ!!
 腕が、うでがっぁぁあ!!」


ヘルメスは右腕を肩から切断され、
痛々しい叫びを上げた。

それに構うことなく、父親の連撃は続く。

「ふっ!ふっ!ふぅっ!!!」

ヘルメスはギリギリで避ける。

「うガァぁぁ!!」

父親が勢いよく下から振り上げると
最後の一撃がヘルメスの頬をかすめ、
顔面に深い傷を負う。

「!!?あぁぁ!!
 くそ医者がーー『ミント』!!」


ヘルメスは大量の血を垂れ流しながら
一歩下がってしゃがみ
地面に左手を突き出して、唱えた。

すると、赤い幾何学模様が
一つの仮面を具現化する

まるで雄山羊と悪魔が交わったような
螺旋状に鋭く尖った角を模した仮面だ。

「くそが!

――『ユーティリティ』!!」

左手で仮面を顔に当て、
フレーズを唱えると
ヘルメスの全身を毛が覆う。

雄山羊を獣人化したような
おぞましい姿に変化した。

「グガァァァ!!」

獣人と化したヘルメスは
地鳴りのような雄叫びを上げると
鋭い爪の生えた左腕で父親を引き裂いた。

「あ、ぁぁぁ!!とうちゃん!!!」

「はぁ、はっはっ……。
 うるせぇガキだな。
 オマエらも、はぁ……殺して、やるよ」


父親が落としたメスを
獣のような左手で拾い、
大きく振り上げた。



――ズシャ!!




――現在

「モネちゃん、モネちゃん!!」
 大丈夫?」

「ぐ、ぐわああああああ」

忘れもしない、あの立ち姿。
過去の出来事が、
一気にフラッシュバックとなってモネの中で蘇る…。

「オルタ……アイツで間違いないな?
 6年前、ウチらを襲ってきた奴」

「……せやな。あの顔は間違いない。
 ずっと、探してきた仇相手や!!」

頬に縦傷のある男は、
間違いなく父親を殺したヘルメスだった。

モネはその目で捉えると、
抑えきれない感情が
彼女をすぐに突き動かした。

「やっと……やっと見つけた!
 うぐっ、ぐううう
 


――『ミント』!!」

「モネちゃん!やめとき!」

モネは
大鎌 “シンセカイ” を具現化。

興奮した彼女は目の色を変えて、
ヘルメスのリーダー目掛けて襲い掛かる。

「うぉあぁぁぁあああ!!
 ハァハァハァ、
 『ユーティリティ』1年使用!!」


すると、”シンセカイ” の周りを
幾何学模様が包み込み、緑色に光りだす。

「アホ!モネちゃん!!
 それ使ったらアカン!」


仇であるヘルメスは、
シン日本軍との交戦中にも関わらず、
モネの強い殺気で敵が増えた事を察知した。



――キィン!!

ヘルメスは右腕で、直接大ガマを受け止める。

体積に大きな違いがあるにも関わらず、
右腕はビクともしなかった。

「……なんや?
 このガキ……
 どっかで見たことあるような……?」




――ブンッ!!

ヘルメスはそういうと、
モネの首元を左手で掴み、降り投げる。

モネは軽い身のこなしで、
身体を回転させ着地した。

「くそ!緑程度やったら効かんか。
 せめて赤以上やないと……
 ほな、『リビール』!!」

「モネちゃん、やめてぇぇえ!!」

オルタが羽を大きく広げ、
ユーティリティと言いかけた
その時、



――

――ブロロロロロロロ!!


――ドンッ!!

「!!?ぐぉおッ!!」

ズザザザザザザ!!

派手な装飾をしたトラックが
ヘルメスを数メートル跳ね飛ばし、
モネの前に止まった。

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突如現れた派手なトラック

――ガチャ!

「オルタ、モネ!乗るんじゃ!!」

トラックの窓から顔を出したのは
例の白衣を着た老人だった。

「!!?おじいちゃん!」
「!!?変態じじいッ!」

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